不動産賃貸業は、
「家賃が毎月入るから安定している」
と思われがちな事業です。
しかし実際に経営してみると、
・黒字なのに資金繰りが不安
・通帳残高を見るたびに緊張する
・修繕や税金の時期が近づくと落ち着かない
こうした感覚を覚えることがあります。
私自身も、不動産賃貸業を営む中で、
突発的な支出の大きさに何度も驚かされてきました。
特に印象的だったのが、
・室内がゴミ屋敷化していた部屋の修繕
・孤独死が発生した住戸への対応
です。
事前に想定していた修繕費の枠を大きく超え、
一時的に数十万円〜百万円単位の現金が必要になりました。
この経験から痛感したのは、
「想定外」は必ず起きるという現実と、
それに耐えられるのは現預金しかないという事実です。
本記事では、
・なぜ現預金が経営の安定性を左右するのか
・どのように現預金を設計すべきか
・売上高1,500万円規模の不動産賃貸業者をモデルとして、いくらを目標にすべきか
を、数字ベースで解説します。
なぜ不動産賃貸業では現預金が重要なのか
不動産賃貸業はの支出は、
「予測はできても、時期と金額は読めない」
という特徴があります。
実際に起こる突発支出の例
・ゴミ屋敷化による大量廃棄物処理、特殊清掃、内装の全面張替え
・孤独死発生時の特殊清掃、消臭・除菌、原状回復の長期化
・給湯器やエアコンなど高額設備の同時故障
・粗大ごみの不法投棄による処分費の発生
これらは、
・利回り計算
・修繕積立の想定
の外側から、突然やってきます。
しかも多くの場合、
・分割払いできない
・支払いを待ってもらえない
という性質を持っています。
現預金は「余ったお金」ではない
ゴミ屋敷化した部屋の修繕や、
孤独死対応を実際に経験して強く感じたのは、
最後に経営を守るのは、
帳簿上の利益ではなく、
手元の現預金である
ということでした。
利益が出ていても、
減価償却で税金が抑えられていても、
通帳残高が足りなければ選択肢は消えます。
・修繕を先延ばしにする
・業者選定を妥協する
・想定外の借入に頼る
こうした判断は、
後から必ず経営に悪影響を及ぼします。
【前提条件】売上高1,500万円の不動産賃貸業者モデル
※以下はあくまで一例です。
想定条件
・年間家賃売上高:1,500万円(月125万円)
・借入あり(元利返済、売上高返済比率33%)
・管理委託あり
年間の主なキャッシュアウト
| 項目 | 年間金額 |
|---|---|
| ローン返済(元利) | 約500万円 |
| 管理費・共用費 | 約150万円 |
| 固定資産税等 | 約120万円 |
| 通常修繕・雑費 | 約100万円 |
| 合計 | 約870万円 |
月あたりの固定的な現金支出は、
約70〜75万円と想定できます。
現預金の目標①【最低ライン】
固定支出の3か月分(200〜250万円)
・平常時の修繕や軽微な設備トラブルであれば対応可能
・短期的な空室が1〜2か月発生しても、資金繰りは維持できる
一方で、
・単発のゴミ屋敷修繕
・孤独死対応による特殊清掃・原状回復
が発生した場合、
この水準では資金が急減し、その後の運転資金が不足する可能性が高いのが実情です。
特に、
・修繕費の支払い
・固定資産税やローン返済
・空室期間の長期化
が重なると、
経営は一気に行き詰まります。
このラインはあくまで、
「想定外が起きないことを前提に、辛うじて回る最低限の防衛ライン」
であり、
事故・トラブルを一度でも経験すると破綻リスクが顕在化する水準
である点を強く認識すべきです。
現預金の目標②【安定ライン】
固定支出の6か月分(400〜500万円)
・突発的な修繕と空室が同時期に発生しても、慌てずに対応できる
・原状回復や修繕について、価格だけでなく品質や耐久性を考慮して判断できる
・支払いのために無理な借入や短期資金に頼らずに済む
この水準に達すると、
日々の資金繰りに対する不安が大きく軽減され、
経営者としての視野が一段階広がる感覚を持てるようになります。
「今すぐ直すべきか」「少し様子を見るか」
「どの業者に依頼するか」
といった判断を、
現金残高ではなく、経営合理性で考えられるようになるのが、
この安定ラインの大きな価値です。
私自身の場合も、
新たに不動産を購入して自己資金を投入する際には、
取引後の現預金残高がこの安定ラインを下回らないかを、
必ず確認するようにしています。
一時的に利回りが高く見える投資であっても、
このラインを割り込むのであれば見送る、
という判断をします。
まずは、
「どんな投資をするか」よりも先に、
この安定ラインを維持できるか」
を判断基準にすることが、
長く賃貸業を続けるための土台になります。
現預金の目標③【信用向上ライン】
固定支出の12か月分(800〜1,000万円)
・大規模修繕や事故対応の多くを自己資金で賄える
・突発的なトラブルが続いても、資金繰りが動じない
・金融機関からの評価が、明確に一段上の水準に変わる
このラインに到達すると、
単に「安心できる」というレベルを超え、
経営の主導権を自分が握っている感覚が強くなります。
金融機関から見ても、
・急な修繕や事故があっても経営が崩れにくい
・短期的な資金支援に依存しない
・長期保有を前提とした安定経営ができている
と評価されやすくなり、
融資条件や相談時の空気感が変わることを実感する場面も増えます。
この水準は、
「簡単には倒れない賃貸経営」
として認識される一つの目安であり、
事業としての不動産賃貸業を完成形に近づける段階とも言えます。
現預金を積み上げるための考え方
現預金は、
使うために持つお金ではありません。
ゴミ屋敷化や孤独死のような事態は、
起きないに越したことはありません。
しかし、
長く続けていれば必ず起こるものです。
・起きたときに
・慌てず
・妥協せず
対応できるかどうかは、
現預金の量でほぼ決まります。
現預金は、
利回りを生まない非効率な資産に見えますが、
経営を継続できる価値は、数%の利回りをはるかに上回ります。
まとめ
不動産賃貸業では、
・想定外は必ず起きる
・しかも忘れた頃にやってくる
という前提で経営する必要があります。
私自身、
ゴミ屋敷化した部屋の修繕や孤独死対応を経験し、
現預金は、利益よりも重要になる局面が確実に存在する
と痛感しました。
現預金は、
攻めのための資金である前に、
経営を続けるための盾です。
まずは、
・最低ライン
・安定ライン
・信用向上ライン
この3段階の数値を明確にし、
「必ず起こる」想定外に耐えられる賃貸経営を設計していきましょう。
以上、ご参考になれば嬉しいです。

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