【大家さん向け】法人で不動産賃貸経営をする時に役立つ制度

不動産賃貸経営

今回は法人で不動産賃貸経営をする時に役立つ制度を紹介します。

日本では民間賃貸住宅の経営形態の約8割は個人経営であり、そのうち6割以上が60歳以上の高齢者といわれています。このような背景から高齢になってから相続やオーナーチェンジを考えるケースが多いことと思います。また、社会的情勢に目を向けると、少子高齢化・人口減の日本では、夫婦と子の世帯が減少していく一方で、単身世帯とひとり親と子の世帯が増えることが見込まれており、これまでと違った賃貸住宅のニーズが増えていくことが考えられます。大きく変化する時代ですが、衣食住の一角の『住』である賃貸住宅は日本の限られた有用な資源であることは変わらず、その適切な利用によって利益を生み出し、社会に寄与することがオーナーには求められます。その中で、不動産賃貸経営を法人化することは、経営の改善や規模拡大に大きく役立つと考えています。

【こんな人に役立つ内容です】
・賃貸経営の法人化を考えている。
・親が賃貸経営をしていて将来事業承継を考えている。
・大規模修繕を控えているが、単年度で多額の経費が発生しそう。
・節税の手段を増やしたい。
・賃貸経営の規模を拡大したい。

『損失の繰越期間』法人は10年、個人は3年

一般的には、アパート・マンションなどの賃貸住宅では、外壁塗装と屋根の防水改修工事が12~18年周期、鉄部改修・塗装工事が4~6年周期など、長期修繕計画に基づいた修繕を行います。このように計画的に大規模修繕を行うことで、傷みきる前に直すことができ、建物を長持ちさせることができます。この大規模修繕は多額であっても資本的支出でない限り単年度で経費化できます。(国税庁:資本的支出と修繕費)一方で物件数や建物の規模が大きくなったり、一度に複数の大規模修繕が重なると経費が膨大になり、単年度で全額を経費化できないケースが出てきます。このようにして赤字決算になった場合、発生した赤字(課税所得のマイナス金額)を翌期以降に繰越して、翌期以降の利益と相殺する方法を損失の繰越といいますが、繰越できる期間が個人事業と法人では異なります。個人事業では3年間、法人では10年間(大企業では控除金額の制限がある)と、なんと7年間もの差があります。大規模修繕を行った場合、個人事業では3年間で全額を経費化できずに損をするかもしれませんが、法人の場合は10年間も繰越ができるため、全額を経費化できる可能性が高いです。

このように、損失の繰越の制度では圧倒的に法人有利です。不動産賃貸経営にとって大規模修繕と計画的な欠損金の繰越は重要な関係にあるため、法人のメリットを生かして長期修繕計画を立てることで、より安定した経営を実現できるはずです。

『中小企業倒産防止共済』の活用

会社を守りつつ、節税をして貯蓄もできるのが、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営している『中小企業倒産防止共済』です。経営セーフティ共済とも呼ばれています。中小企業倒産防止共済は、取引先事業者が倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度であり、掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れることができます。本質的には連鎖倒産や経営難を防ぐための共済ですが、なんと積立てた掛金が損金(経費)に算入できる税制優遇が受けられるのです。そして、掛金の支払いを40ヵ月以上継続すれば、解約時に100%返金されます。

★中小企業倒産防止共済のポイント★
・掛金が全額経費になる。
・掛金は月額5,000円~20万円の範囲で自由に選べ、増額・減額ができる。
・積立て上限は800万円まで。
・掛金の支払いを40ヵ月以上継続すれば、解約時に100%返金される。
・前納制度を使って1年分をまとめて損金算入できる。
・無担保・無保証人で、掛金の10倍まで借入できる。
・解約金は雑収入として課税されるので出口戦略が重要。
ただし、解約金は雑収入として課税されるため、実質的には節税というよりも課税の繰延なので出口戦略が重要といえます。不動産賃貸経営での活用例として考えられるのは、積立金が800万円に達するまで積立てておき、大規模修繕を実施した事業年度に解約します。そうすることで大規模修繕の損金が倒産防止共済の解約による益金で相殺されます。そして、解約後に再度加入して次の大規模修繕に備えます。

個人・法人で所得分散をして超過累進税率の緩和を図る

個人による不動産賃貸経営の場合、所得はオーナー1人のものです。個人の所得には超過累進税率が適用されるため、所得が増えるほど税率が上がってしまいます。個人の所得に対して課される実効税率は最高55%(所得税+住民税、事業税と復興特別所得税除く)であるのに対して、法人は30%前後といわれています。

そこで、不動産の所有権を法人に移転して、家賃収入を法人が受け取ります。法人は役員報酬を役員に支払うことで、法人と役員に所得が分散されます。更に、家族が役員として就任することで所得を各人に分散することができます。このとき、個人が受け取った役員報酬は給与所得であるため、給与所得控除を利用することができ、法人、役員の合計の課税所得を更に下げることができます。注意点は、役員として登記して経営関与すること、役員報酬が定期同額であること、社会保険に入ることなどが求められます。

信用力を上げる

最後は制度というよりも一般的な知識です。不動産賃貸経営では、金融機関から融資を受けて物件を増やすことが基本になります。その中にあって、経営者の信用力は融資を受けるためには欠かせません。資本主義経済では、法人は事業を行い、利益を追求するための組織であるため、対外的な信用力は個人よりも高いのです。たとえ、1人で運営するオーナー社長(株主&社長)のマイクロ法人であったとしても、法人運営のための様々な業務(決算、年末調整、官報への公示など)をこなしているため、法人化しているだけで、覚悟を決めて経営をしているのだと見られます。このような背景があって金融機関の審査も法人であった方が通りやすいといわれています。また、個人よりも法人の方がより有利な条件で融資を受けることができる可能性も高まります。できるだけ低い金利で長期間の融資を受けることができれば、単年度のキャッシュアウトが減り、経営が安定化します。

不動産賃貸経営の法人化のデメリット

不動産賃貸経営の法人化のデメリットにも軽く触れておきます。

  1. 不動産の所有権を個人から法人に移転する時に費用がかかる。(売買代金、登記関連費用、不動産取得税など)
  2. 法人の設立費用がかかる。(株式会社で25万円、合同会社で10万円前後)
  3. 赤字でも法人住民税均等割の負担がある。(最低7万円)
  4. 士業関係の費用がかかる。(税理士、司法書士等への業務委託)
  5. 社会保険へ加入しなければならない。(法人では1人であっても役員報酬を支給する際には社会保険への加入が義務付けられている。ただし、役員報酬が0円の場合は加入資格なし。)

まとめ

今回は、最大10年間の損失の繰越期間、中小企業倒産防止共済、所得分散、信用力向上、これら4つを法人で不動産賃貸経営をする時に役立つ制度として紹介しました。経営の改善や規模拡大には法人化が役立つはずですので検討してみる価値はあると思います。

以上、ご参考になれば幸いです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました