不動産賃貸業において「借入金」は、事業の成長に不可欠な武器であると同時に、多くの人にとって“心の負担”にもなりがちです。
「もし返済できなくなったら…」
「空室が続いたら破綻するのでは…」
こうした不安は、数字上は問題がなくてもつきまとうものです。
今回は、借入金に対する不安を和らげる方法と、逆に“借入が少なすぎる”ことの非効率性について、マインド面・テクニック面の両面から解説します。
借入金に対する「不安」を解消するマインドセット
◉ 不安を数値化せよ
「なんとなく不安」ほどやっかいなものはありません。
そこで、「空室率が30%になったら?」「金利が1%上がったら?」といったストレスシナリオを具体化し、数値で検証しましょう。
数字に落とし込むことで、対処可能な問題に変換できます。
◉ 借入=リスクではなく、レバレッジ
借入金は「悪」ではなく、「てこの原理」で自己資金の力を倍増させるレバレッジ効果をもたらす道具です。
自己資金だけで1戸しか買えないところ、借入を使えば3戸買える。
しかも賃料収入も3倍です。
リスクではなく「投資戦略の一部」として捉える視点が重要です。
◉ 「現預金の備え」が心理的支えになる
借入に対する最強の安心材料は、現金です。
元利返済6〜12ヶ月分
大規模修繕2回分(外壁+設備)
この程度のキャッシュを用意しておけば、万一の事態にも冷静に対応できます。
借入金の管理テクニック|数字で見る安心
◉ 売上高返済比率(返済比率)をチェック
まず基本となるのは、「売上高返済比率」=年間家賃収入に対する年間返済額の割合です。
返済比率 評価
~30% 非常に余裕あり(資本余剰)
30〜50% 健全な水準
50〜70% ややリスク高め
70%以上 要注意・CF圧迫
あなたの返済比率が50%未満であれば、非常に健全な運営ができているといえます。
◉ DSCR(返済余裕倍率)も併せて確認
DSCR=営業純利益(NOI) ÷ 年間返済額
これが1.2以上あれば安全圏、1.5以上なら非常に健全です。
毎年の運営実績から、継続的に確認しておきましょう。
◉ 修繕積立・予備費の準備
毎月の家賃の5〜10%を予備費に回し、大規模修繕に備えることは、キャッシュフロー安定化の基本です。
◉ 金利変動に備える
借入が変動金利の場合は、固定金利への借り換えや長期固定の選択で、将来の見通しを安定させられます。
返済比率が「低すぎる」ことの落とし穴とは?
意外と見落とされがちですが、返済比率が低すぎる=借入をあまり使っていない状態は、実は資本効率が悪く、機会損失につながる可能性があります。
◉ なぜ非効率なのか?
自己資金が眠る(遊休資産)
レバレッジ効果が働かない
ROE(自己資本利益率)が低下
同じ1000万円の資金でも、借入を使えば資産を倍・3倍に増やすことが可能です。
◉ 比較シミュレーション
※仮定の数値。ローンリスク・管理コストを無視。
モデル | 物件価格 | 借入金 | 月CF | ROE |
自己資金100% | 1,000万円 | 0円 | 4万円 | 4.8% |
借入50% | 2,000万円 | 1,000万円 | 7万円 | 8.4% |
借入75% | 4,000万円 | 3,000万円 | 12万円 | 14.4% |
まとめ:あなたにとっての最適なレバレッジを考える
借入金は、ただ「減らせば安心」という単純な話ではありません。
高すぎる返済比率 → リスク過多
低すぎる返済比率 → 非効率・拡大の停滞
自分の目標(例:早期退職、CF月80万、法人年商1800万円など)に合わせて、最適な借入比率・資本構成を設計することが、戦略的な不動産経営の鍵になります。
最後に
借入金への不安は、「漠然としたもの」から「構造化されたリスク」へ変換することで克服できます。
そのうえで、「攻める場面では借入を活かす」という視点を持てば、あなたの不動産事業は一段階レベルアップするでしょう。
以上、ご参考になれば幸いです。
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